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映画 『青春デンデケデケデケ』

大林宣彦監督の『青春デンデケデケデケ』を観た。傑作だ。

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ラジオから流れてきたThe Venturesの「Pipeline」のデンデケデケデケというイントロに衝撃を受け、ロックに目覚めた男子高校生がメンバーを集めてバンドを結成。友情や恋、家族や先生、そして将来のこと。高校3年間における青春のあれこれとバンド活動を描いている。とまあストーリーは潔いほどにど真ん中を行く、全くもって普通の青春映画である。でも何故か、よくある話だよねで済ませたくはないのだ。時折顔を見せる大林監督の普通ではない演出が、ちょっとしたスパイスになっているのだろうか。頻出する、橋の上を自転車で走る主人公 (達)を遠くから捉えたシークエンスはやはりたまらないし、久石譲の音楽もよい。初々しい浅野忠信(まだ10代!)も見どころだ。

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近年における高校生のバンド生活を題材にした作品のひとつとして『けいおん!』が挙げられるが、誤解を恐れずに言うのならば、『けいおん!』はまさに現代の女子高生版『青春デンデケデケデケ』なのだ。楽器を買うためのアルバイト、バンド名会議、練習場所探し、合宿、文化祭前夜の学校に泊まり込み、といった共通するエピソードを見るに、時代や流行が変われど、変わらないものはあるらしい。

この映画で重要なのは、青春の輝きのうちに物語が終わるのではなく、”まつりのあと”が描かれている点だ。文化祭が終わった高3の冬、それぞれが自分の道を進み始める。主人公である藤原竹良(ちっくん)以外のメンバーは、ほとんどが家業を継ぐため街に残るが、ちっくんは東京の大学に行くこととなる。周りが先へと進む中、バンド活動に対する未練、自分の進路への不安を抱えるちっくん。思い出の地を巡り、過ぎ去りし日々に思いを馳せる。鍵のかかった部室の前で、「(部室の鍵はもう下級生に譲り渡してしまった。)したがって僕には入れない」と繰り返しつぶやく。そして文化祭で演奏をした体育館にひとり立ち、「みんな終わってしまったのだ」と青春の有限性を噛み締めるのだ。そんな彼の背中を押すために、メンバーは終身バンドリーダーの称号を贈る。これは、事実上の解散になっても、活動を続けなくなっても、「ロッキング・ホースメン」は在り続けるのだという証だ。(ちなみに先述の『けいおん!』では、「天使にふれたよ!」という曲でもって、卒業する4人が残された1人の後輩にこれからも仲間であり続けることを伝える。)嫌でもやって来る”まつりのあと”の寂しさに対してどうケジメをつけ、どう進んで行くのかが大切なのだ。

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青春はいつか終わる。「この時間がずっと続けばいいのにな」という願いは叶わない。別れを告げ、先に進まなければならない。けれど、きちんと胸に刻んでおきさえすれば、仲間と過ごした輝かしい日々はずっとそこに在って、触れることだってできる(本作の語り手である未来のちっくんがそうしているように)。そして、愛した音楽は永遠に鳴り続ける。

これから先の人生で、どんなことがあるのか知らないけれど、愛しい歌の数々よ、どうぞ僕を守りたまえ。

東京に向かう電車内での、ちっくんのこの祈りはどうしたって泣けてしまう。

 

【補足】

原作者の芦原すなおさんは作家活動とは別に、The Rocking Horsemenというバンドで音楽活動を続けており、今年で25週年を迎えるというから素敵じゃありませんか!ちょうど原作小説を世に出した後、このバンド活動を始めている。青春はいつか終わってしまうけれど、一度きちんと終わらせれば、またいつでも始めることができるのだ。どうやら青春に年齢は関係ないというのは本当らしい。