野良猫とお婆さんの話
近所の公園には一匹の黒い野良猫が住み着いている。もう少し前はもっと何匹もいたような記憶があるのだけれど、最近はその一匹しか見ない。そいつの左耳は少し欠けている。恐らく喧嘩でもして怪我したのだろう。猫は割と好きなのでコミュニケーションを取ろうと試みたことも何度かあったが、近づくとすぐに逃げ出してしまう。そういや見た目も孤高の人ならぬ猫という感じがしなくもない。
しかしそいつにも気を許す人がいたようだった。おそらくこの近所に住んでいるお婆さんだ。いつも同じ場所、公園の側のコンクリートの腰掛け。そこで彼女が膝の上にその野良猫を乗せ、何をするでもなくぼんやりと辺りを眺めている姿をよく目にした。雨の日に傘をさしながらその野良猫にタオルケットを掛け、膝に乗せている光景を見たこともある。水や餌を与えたりもしていたようだ。互いに互いを必要としているという感じだった。
それがどうしたことか、いつもの時間に通りかかってもその姿が見えない。野良猫は相変わらずそこにいて、一人寂しそうに佇んでいる。そんな日がしばらく続いた。普段特別意識したことはなかったけれど、見慣れない光景になんとなく落ち着かなさを覚える。彼女に何かあったのだろうかとか、その野良猫はちゃんと食えてるんだろうかとか、色々考えてしまう。全く同じ場所で意地悪そうなお婆さん(完全に偏見)がタバコをふかしているのを見たときは、そのあまりのタイミングの良さ?から、知らないところで何か物語が繰り広げられているのでは、という妄想をしてしまったりした。
そんなくだらない妄想を知ってか知らずか、彼女はある日あっさりと姿を現した。いつもの腰掛けには、あのお婆さんがパートナーと思われるお爺さんと一緒に座っており、その傍らにはあの野良猫が鎮座していた。野良猫の毛並みがいつもより乱れており、やっぱり何かあったのではと思ったが、実際のところは知る由もない。たまたま自分が見かけなかっただけなのか、それとも久しぶりにそこを訪れたのか、結局分からず終いだけれど、やはりこの光景がしっくりくる。安心したような、ちょっとがっかりしたような気持ちを残して、その野良猫とお婆さんを巡る物語もとい勝手な妄想はあっけなく幕を閉じたのだった。
というだけの話。
最近のくらし
街行く学生たちの制服が涼しげな夏服へと変わっていく。夏の訪れ。日が長くなってきたと感じる毎日だけれど、夏至を過ぎてから2週間以上経っている。ここらへん、現代の季節感とずれてしまっていて、毎度のことながら違和感を感じる。
バイト先の先輩から自転車を貰った帰り道、近所を軽くサイクリングした。坂道を立ち漕ぎで登って汗ばんだ体を、坂道を駆け下りていくときの風が撫でていく感覚がやけに懐かしく、たまらない気持ちになった。というのも自転車に乗るのは、大学一年生の夏、趣味を通じた友人らと鎌倉に泊まり込みで遊びに行った時以来なのだ。ふとした思いつきで宿の自転車を借り、鎌倉から江ノ島まで行ったのだった。その時の、山道を抜け、海岸沿いの道に出たときの開放感を思い出した。久しぶりに触れる空気、感覚が昔を思い出させる。季節の変わり目は特に。
先日誕生日を迎えた。20歳になるまでは多少なりの喜びなんかもあったわけだけど、今となってはただ数字が増えていくだけである。むしろ、その数字に見合っただけの中身ある人間になれているのだろうか、などと考えて不安にもなる。とはいえ、家族や友人から祝ってもらえる、というのはいくつになっても嬉しいもので、ただただ感謝である。誕生日当日の朝は、レポート課題に徹夜で取り組んでおり、最悪の始まりだった。少し仮眠をとり、大学に行きレポートを提出。山手線一周分の睡眠をとって時間を潰した後、吉祥寺へ。夜は井の頭公園でお酒を飲み、久しぶりに会った友人や後輩と話した。結果オーライ良い日であった。
6月はバイトを全然していなかったので、金欠に悩まされる日々だ。なけなしのバイト代も夏休みに向けて貯金しなければならないので、部屋の片付けをしつつ、もう聴かなくなったCDやゲームソフトを集めて売ることで生活をしている。どうせ大したお金にはならないと 思っていたが、今流行っているバンドが昔出していたアルバムの初回盤などはそれなりに高く売れるので馬鹿にできない。昔好きだった物を売ってしまうのは少し寂しいけれど。そうして手にしたお金を手に街をブラブラ。Magic, Drums & Loveや山田稔明のアルバムなど欲しいものは多いが、財布の紐は固く購入には至らず。安く済む娯楽を求めた結果ツタヤへ。100円で名作を観られる世界で良かった。折角だから夏っぽい映画でも、ということで『ウォーターボーイズ』と『学校の怪談2』を借りる。
青春映画の金字塔。文化祭。近所の女子校。男子校のどうしようもなくも愛しい感じを思い出してしまう。音楽のチョイスも素晴らしい。何よりテンポが速く、全部で90分ほどなのが最高。そのうちドラマの方も見直したいなあ。
『学校の怪談2』
少年時代は『USO!?ジャパン』なんかを観て、都市伝説や怪談に心躍らせていた訳だが、意外にもこのシリーズは未見だった。評判には聞いていたが、いやはや素晴らしきジュブナイル映画ではないか。怪談というモチーフの下、少年少女たちの一夜の冒険を見事に描いている。独特なセリフが飛び交う会話劇は、生き生きとしていて面白い。 ポケモンの映画を観に行ったとき、上映前に『学校の怪談4(だったかな?)』の予告が流れて「なんでポケモン観に来てるのにホラー映画の予告を観なきゃならんのだ」と子供ながらに思ったものだが、今思えば少年時代にこのシリーズを観ていなかったことが悔やまれる。
ポケモンの映画といえば、先日『ミュウツーの逆襲』を観たのだった。昔とても感動した記憶があったので、少し期待して観たが、今観ると、正直なところそこまで良いか?という感想だった。我々は何のために生きるのかだとか、人間がポケモン同士を戦わせることについてだとか、同じ生き物同士で何故戦わなければならないのかだとか、子供向けの映画とは思えないテーマを取り扱っている点に関しては面白いと思うけれど、話の構成や展開の仕方の部分で微妙に乗り切れないところがある。上映時間の短さ故であるとは言え、子供向け映画の域を出ていないように感じる(子供向けだからそれで良いんだけれど)。しかし、小林幸子の「風といっしょに」が流れるエンドロールは今観ても心動かされる。同時上映の『ピカチュウのなつやすみ』もついでに観たが、これこそまさに子供向け。こんな夜中に何を観てるんだ俺は、という気持ちになったが、サントラは最高だ。ポケモンの曲には大人の目線が入った曲が多いと感じるのだけれど、子供と一緒に観るであろう大人の心を掴むという意味で上手いやり方だなと思う。あと以前にも書いたけれど、「プール(11才の夏)」という曲が隠れた名曲なのだ。
🙃「プール(11才の夏)」って曲、自分で録り貯めてたデモ曲の一曲、戸田さんが後から歌詞をつけてくてました。アニメにも映画にも使われてないけど、歌詞の内容、歌ってくれたヒロキくんとミドリちゃんの歌唱含め、偶然かけがえのないサウンドに仕上がったのでは?と聴くたびに思う、手前味噌ながら
— たなかひろかず/Chip Tanaka (@tanac2e) 2016年2月11日
作曲者の田中宏和さんがこんなツイートをしていたのを先日発見。彼の言う通り、本編では全く使用されていないが、サントラの中で不思議な輝きを放っている。
なつやすみは むちゅうで ぼうけんの まいにちなんだ
こどもたちが あちこちを たからじまに かえてしまうのさ
「ピカピカまっさいチュウ」
個人的にこのサントラCDが纏っている輝きは、ザ・なつやすみバンドの「サマーゾンビー」や「S.S.W. (スーパーサマーウィークエンダ―)」などのもつフィーリングに通じるところがあると感じているのだけれど、気のせいだろうか。
そんなこんなで、大学の授業をちょろっと受けて、帰りに友達と飲んだり、趣味に没頭したりと残りわずかなモラトリアムを満喫しているわけだが、どこか満たされない気持ちがある。就活も無事終わりを迎えることができ、精神的にも肉体的にも解放されたはずなのだけれど、待っていたのは天国でもなんでもなく、きちんと卒業できるのかという漠然とした不安や、目の前のレポート課題に悩まされる、以前と変わらない日々だ。そんなことは至極当たり前のことだし、本当に大変な人が聞いたらふざけんなと思うだろうけど、新学期や夏休みに根拠のない期待をして、現実にガッカリしてしまうアレのようなものだ。きっと、 酷く悩んだ過去の日々は終わってみれば大したことはなくて、待ち焦がれた未来の日々は始まってみればそれほど輝いていない。そんなものなのだろう。こうやって書くと誤解されるかもしれないが、決して今が楽しくないわけではない。結局はないものねだりなのだ。それに、物足りなさを感じている日々も今の自分には分からないだけで、何年後かに振り返ると眩しいほど輝いていたりするんだろう。きっとそういう風にできているのだ。思い出はいつも綺麗だけど、てヤツだ。
『Life Is Strange』選択をするということ
E3やPSVRに関する動画を見ていて久しぶりにゲーム欲が高まったので、少し興味があった『Life Is Strange』というゲームをプレイした。
もし他の選択肢を選んでいたらどうなったんだろう、どういう会話になったんだろう、というのは、ゲームをプレイしていて度々思うことだ(ドラクエなんかは何回でも試すことが出来るけれど)。過去の選択をやり直す。それがこのゲームでは出来てしまう。
ストーリーは、時間を巻き戻す能力に目覚めた主人公がその力を駆使し、街で起きている事件の真相を暴いていくという、悪く言うとありがち、良く言うと王道な内容。作中には、リスペクトしているであろう『バタフライエフェクト』などの映画のタイトルが多く出てくる。しかし、このゲームにおいてタイムリープは、あくまで物語を演出する要素のひとつとして位置付けられており、その概念や影響についての科学的説明等は深くはされていない。
ゲームを進行していく中でプレイヤーは多くの選択を迫られ、それによってストーリー展開(大筋は変わらない)や人間関係といった状況が変化していくのだが、先程述べたように、このゲームでは時間を巻き戻す能力が使えてしまう。しかもボタンひとつで。その上選択肢は、どれが良いと明確に判断できないものが多いため、思わず何度もやり直してしまう。制作側の思うツボである。全プレイヤーの選択がオンラインで共有され、その比率が確認できるようになっており、これを見るのがまた面白い。クリアまでのプレイ時間もそれほど長くなかったので、RPGを最後までクリアできなくなった今の自分には丁度良かった。音楽や映像の演出もなかなか。
人生は選択の連続とはよく言ったもので、「今日の昼飯を何にするのか」といった小さいものから、「どの会社に就職するのか」といった大きいものまで、人は生きていくうちに幾度となく選択をする。そしてそれには何らかの犠牲や後悔が伴う。時間を巻き戻すことができたら、過去をやり直すことができれば、というのは自分を含め誰もが一度は考えることだ。しかし実際にそれが何度でも出来てしまったら、文字通り過去に囚われ、いつまでも未来に進めないままになってしまうのではないだろうか。現実はゲームのように、決められた時点で、決められた2つ、3つの選択肢からひとつを選択すれば良いという訳ではない。選択肢は無限に存在しており、その中から自分なりに答えを見つけていく必要がある。それを納得のいくまでやり直していたらキリがない。やり直しがきかないからこそ、ある程度諦めも付くわけだし、前を向けるのでは、と思う。とは言いつつ、1日限定とかで能力欲しい、というのが本音である。
常に後悔しない選択ができれば最高だけど、そんな訳にはいかないし、後悔と上手く付き合っていかねばならんのです。今まさに大学4年生という大きな選択をする時期にあるので、色々と思うことがあったのでした。ちなみにこの『Life Is Strange』、PC版は現在セールで安くなっているらしいのでお暇でしたら。
近頃のこと
街灯はたらくおっさんで ぼくの世界がキラキラ人が生きてるって ほら ちゃんと綺麗だったよね夜の海水面をうつろう光に飛び込めこの街は僕のもの
2月22日、朝
過去を振り返ることと最近のことと
先日、自分のこのブログを読み返すことがあった。昔を振り返る作業というのは、恥ずかしさと後悔を伴うものだけれど、とても尊い。幼稚園から小学校低学年にかけての時期に絵日記をよく書いていて、昔はそれを読み返すのが好きだった。黒歴史だなんて言葉があるけれど、自分はあまり好きではない。昔自分が好きだったものを否定する人なんかもよくいるが自分はそれをしたくない。恥ずかしく辛い過去の出来事もなかったことにするのではなくて、そんなこともあったよねと笑って話せたらいいなと思います。とまあ前置きはこれくらいにして、要するに久しぶりにブログを書きたいと思い、これを書いているという訳です。
湖に浮かべたボートをこぐように人は後ろ向きに未来へ入っていく目に映るのは過去の風景ばかり明日の景色は誰も知らない
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シャムキャッツ『素晴らしい日々』
ジャケットに象徴されているように、いろいろ魔法の絨毯に乗せてどっか行けたらなって思っております。何を乗せて行くのかはこれを聞いてもらえればわかるかと。そうそう、つまりれ、昔を振り返るノスタルジックCDじゃなくて、次どうしようか、面白くしたいよねえ〜っていう準備なので、そこらへんよろしくお願いします。
音源集の方はといえば、『素晴らしかった日々』なんてタイトルだけど、夏目さんのブログによるとこういうことらしい。シャムキャッツの今後に期待せざるを得ない。