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映画『この世界の片隅に』

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もし本作をカテゴライズするならば、ジャンルはおそらく戦争映画になるのだろう。しかし『この世界の片隅に』で描かれているのは単なる戦争の悲劇ではなく、その真っ只中で確かに営まれていた人々の暮らしだ。衣・食・住と、それに伴う日々のなかの何気ない動作を、充実したディテールの数々と非常に丁寧なアニメーションでもって表現することで、生の喜び、美しさを描き出す。豊かな日常動作の描写は、冒頭の重い荷物を壁に押し当ててから背中に背負うシーン、手を擦り合わせ、息を吹きかけ暖めるシーン、包丁とまな板をバイオリンに見立て、演奏するかのように切った食材を釜に入れるシーンと、例を挙げれば枚挙に暇がない。

本編の構成(特に前半)は基本的に少し笑えるエピソードの連なり(実際に劇場でも何度も笑いが起きていた)なのだけれど、それ故に、これから起きる誰もが知っている悲劇が強く意識されてしまう。これは反対に、我々がこれから起こる悲劇を知っているからこそ、そこで営まれている生活がかけがえない、美しいものに感じられるとも言える。そんな訳で、恥ずかしながら全編通して目を潤ませていたのだけれど、とりわけ好きなのが終戦日の夕飯のシークエンスだ。タンスにしまっておいた米を取り出したサンの「明日も、明後日もあるんだから」というセリフと、それに続くすずの「この先もずっと続いていく」という心の中の語りは、現代の我々の暮らしとの繋がりを意識させてグッときてしまうし、遮光カバーが外され、食卓の灯りが街にひとつ、またひとつと灯っていく様はどうしたって泣けてしまう。

他にも、すずが右手を失った際の背景の演出だったり、かなとこ雲とキノコ雲の連想だったり、コトリンゴの歌がめちゃくちゃ良いことだったりと、色々あるのだけれど、兎にも角にも大傑作。監督や原作者、製作陣の方々はもちろん、クラウドファンディング出資者の方々に感謝である。比べるわけではないが、同じアニメ映画である『君の名は。』の大ヒット同様、本作も多くの人に観られて欲しいと思う。